🌹王妃が愛した宮廷画家―エリザベート= ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン🌹 Part2

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🌹王妃が愛した宮廷画家―エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン🌹 Part2


東京富士美術館へ

先日、東京都八王子市にある、東京富士美術館へはじめて行ってきました。

今回は企画展が目的ではなく、私がもっとも敬愛する画家である、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン(長いので、以後、親愛の情を込めて‘’ルイーズ‘’とさせていただきます。)の作品を見ることが目的でした。

国立西洋美術館あたりで所蔵されているかと思って調べたら、どうやら国内では東京富士美術館でしか見られないということがわかり、八王子自体が初訪問ということもあり、内心多少ドキドキワクワクしながら現地へ向かいました。

 東京富士美術館では、「ルイ16世の妹 エリザベート王女」(1782年)「ユスーポフ公爵夫人」(1797年)の2点のルイーズの作品と、彼女の原作を元に夫の姪であるユージェニーが模写したものと推測されている、「フランス王妃 マリー=アントワネットの肖像」を所蔵しています。

今回、この3点の中から「ユスーポフ公爵夫人」が展示されていたため、本物のルイーズの作品に会える、またとないチャンスだと思い、八王子まで行ってきました。東京富士美術館は毎週土曜日は小・中学生は無料となっていることもあってか、私が訪れた平日の午前中は、ゆっくり鑑賞することができました。

 美術館の1階エントランスは、ガラス張りで明るい雰囲気でした。チケットを購入して受付を通ってエスカレーターを上がると、いよいよ3階の展示室に到着します。

*東横インのメンバーズカードをお持ちの方は、持参するとチケット料金が割引になります。 

展示室1は企画展示室で、私の訪問時には、レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく「タヴォラ・ドーリア」が展示されていました。

ロココの部屋

展示室2には、私が一番見たかったロココや北方ルネサンス、展示室3は新古典主義、ロマン主義、印象派の作品を中心に展示されていて、美術の番組や美術史の本でしか見たことがない、巨匠の作品の数々を目にすることができ、夢の中にいるようでした。

以前は、ロココは享楽的で装飾過多なイメージがあって、あまり好きになれませんでした。しかし、『別冊太陽 ロンドン・ナショナル・ギャラリー 名画でひもとく西洋美術史』に掲載されている、ルイーズの作品「麦わら帽子の自画像」1782年)を初めて目にしたとき、「なんて美しい人なんだろう!」と衝撃を受けました。

そして、「今まで思っていたのと違って、ロココってかわいい♡」と思うようになりました。

今回展示されていた「ユスーポフ公爵夫人」のモデルは、赤いショールを身に纏っているため、少し離れたところからでも目立っていたのですが、あえて1つ1つ作品を見ながら、近づいていきました。

さて、ユスーポフ公爵夫人の手前に、ロココの代表的な画家である、ヴァトー、シャルダン、フラゴナールの3人の作品がまとめて展示されていました。

その中でシャルダンは、貴族の華やかな暮らしを描いたほかの2名とは違って、静物画や市民の日常生活を描いたところに魅力を感じていたので、作品をはじめて見られるのを楽しみにしていました。

今回は、「デッサンの勉強」(1748年~53年頃)という作品を見ることができました。

胸像のデッサンをしている男性が、胸像をさまざまな角度から観察している様子が描かれていて、ひたむきに努力しているさまが伝わってきます。

「ユスーポフ公爵夫人」について

メイ
メイ

そうして、いよいよ「ユスーポフ公爵夫人」が私の目の前に!

第一印象は、‘’思ったより大きい!‘’でした。

そのほかに特に目についたのは、モデルの表情と、大きな赤いショールでした。

この女性は、本で見た、ほかのルイーズの作品と比べると、やや表情が硬いようです。

ルイーズの亡命先のロシアの人なので、まだそれほど打ち解けていない間柄と、真面目な人柄が表現されているのかもしれません。

ショールについてですが、ルイーズ作「麦わら帽子の自画像」「ポリニャック公爵夫人の肖像」(1782年)では、モデルは黒いショールを纏っているのに対し、この「ユスーポフ公爵夫人」赤い大きなショールを纏っています。

ほかの部分がほとんどモノクロに近いので、鑑賞者の目が赤いショールに導かれます。このショールによって、夫人の柔らかな輪郭の体形が強調され、優美さと柔和さを感じさせる効果があると思います。

このショールは、ルイ15世の愛人であったデュ・バリー夫人からルイーズに贈られたもので、ルイーズは亡命生活の間、ずっと大切にしていたようです。

メイ
メイ

デュ・バリー夫人は『ベルサイユのばら』第1巻と第2巻に登場します。

『ベルサイユのばら』では、マリー=アントワネットにいじわるする人物として登場しますが、ルイーズとは大変親しかったようです。

背景の植物は暗い色彩で描かれ、夫人にスポットが当たっているような効果があります。

同じ展示室に、ピーテル・ブリューゲルⅡ世やヤン・ブリューゲル1世の作品が展示されていました。

これらの作品の木の枝や葉の細密な描写と比較すると、ルイーズの作品の表現は大まかに見えるように感じられますが、それにより却って、現実感がなく、神話の世界の女性のような、神秘的な趣を添えているように感じます。

本物を見ないとわからないであろう魅力が2点あります。

その1つが、美しいブルーの瞳です。

ラリマーという、ドミニカ共和国だけで産出される美しい石の色に似ていると感じました。

もう1つは、美しい白い手です。

家事をしたことのない、柔らかそうな、指先まで優雅な手です。実物に会うことの大切さがよくわかりました。

また、ファッションに注目すると、頭には、ピンクのバラと白いレースで編んだ花冠を載せ、白い薄手のシミーズドレスを着ています。

それだけだと透けてしまうので、上に半袖の白いチュニックのような衣服を重ね着し、胸のすぐ下の高い位置に金のベルトを巻いています。

赤いショールは、きちんと羽織ると野暮ったくなってしまうところを、左肩に掛けて背中に回し、さらに、腰掛けている膝を覆うようにラフに掛けています。

ルイーズのアイディアだと思われます。きっちりすぎると堅苦しくなってしまうし、ユルすぎるとだらしなく見えてしまうのですが、絶妙な用い方を提案しているルイーズは、女性をステキに見せるスタイリングが本当に上手だと思います。

さすがのファッションセンス!!

彼女にコーディネイトしてもらえたら、私のファッションも少しはましになるかも?と思ってしまいました(苦笑)。

背中から膝の上に持ってくるショールが、アルファベットの‘’U‘’の字を描くようにたるませてあります。

モデルの表情がやや硬いように見えるので、少しでも柔らかく見せるための工夫なのかもしれません。

「ユスーポフ公爵夫人」作品解説

 モデルのタチアナ・ヴァシリエーナ・エンゲルハルト(1769年~1841年)は、軍人で政治家のグリゴリー・ポチョムキンの姪です。

彼女は、ロシアの女帝エカテリーナⅡ世の寵愛を受けていたといわれています。

1791年に前夫が死亡したため、その2年後にロシアの大地主で元トリノ大使のニコラス・ボリショヴィッチ・ユスーポフ公爵と再婚しました。

 芸術に対する鋭敏な感性に恵まれた彼女は、長年にわたって文学サロンを主宰し、プーシキンなども通っていたといわれています。

 この絵の作者のヴィジェ=ルブランは、ロシアに滞在していた1795年から1801年の間に、ロシアにおける最も大切なパトロンの一族であったユスーポフ家から多数の肖像画の注文を受けました。

公爵夫人の肖像画は、本作以外にも、1790年にナポリで(ジャックマール・アンドレ美術館蔵)、1796年にサンクト・ペテルブルクで(ルーヴル美術館蔵)と2回描いていますが、本作は彼女のロシア滞在中の作品群のうちでも傑作の1つとされています。

*美術館公式ホームページの説明より抜粋させていただきました。

終わりに

以前、このブログのプロフィールに、「好きな画家は(中略)フェルメールやピカソです。」と書かせていただきましたが、調べていくうちに、ルイーズの魅力にはまり、今では、西洋美術史に名を残す画家のなかで1番好きな画家になっています。

 ルイーズについて調べていて、東京富士美術館さんが日本で唯一、彼女の作品を所蔵されていることを知り、どうしても実物に会いたくて八王子まで行ってきました。

自宅からマイカー→新幹線→JR→西東京バスを乗り継いで片道3時間半、八王子は初めてだし、少しだけ不安もありました。

しかし、行ってみて本当に良かったです。

かなり以前に、ウィーンの美術史美術館で、ルイーズ作のマリー=アントワネットの肖像画を見ていた可能性があるのですが、残念ながら記憶に残っていなくて、事実上、今回がルイーズ作品との初対面と言ってよいと思います。

展示室での「ユスーポフ公爵夫人」との出会いは、心躍るものでした。

憧れの人にようやく会える、そんな感覚でした。

また、同様にロココを代表する画家の1人、シャルダンの作品も素晴らしかったです。「フランス王妃マリー=アントワネットの肖像」「ルイ16世の妹エリザベート王女」も、次回、展示期間中にぜひとも見に行きたいです。

◆最後に、3階のミュージアム・ショップに立ち寄りました。

開催中の「サムライアート展」に合わせてなのか、日本美術の関連グッズが目立ちました。

「ユスーポフ公爵夫人」のポストカードと、ルイーズ作「ポリニャック公爵夫人」のクリアフォルダを購入しました。

「ポリニャック公爵夫人」は、ルイーズの「麦わら帽子の自画像」と同じく、麦わら帽子、カジュアルなスタイルのドレス、カシミヤショールの3点セットを身に付けているのですが、ポリニャック公爵夫人のほうが表情が悲しげだなと思っていました。

亡命先で王妃の死を聞かされ、何も食べられず、眠れなくなって亡くなったという、その後の運命を暗示しているかのようです。

🌹最後までお読みくださりありがとうございます。

エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランという、素晴らしい画家の魅力が少しでも伝われば、幸いです。

 使用した写真は、「ポリニャック公爵夫人」は、無料使用可能のパブリックドメインのもので、その他は当日会場で撮影したものです。

 東京富士美術館様、ありがとうございます。

【参考文献】
・『別冊太陽 ロンドン・ナショナル・ギャラリー 名画でひもとく西洋美術史』2020年 平凡社
・『マリー・アントワネットの宮廷画家 ルイーズ・ヴィジェ・ルブランの生涯』 石井美樹子著 2011年 河出書房
・『画家たちのフランス革命 王党派ヴィジェ=ルブランと革命派ダヴィッド』 鈴木杜幾子著 2020年 角川書店

 

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