ゴッホと静物画 伝統から革新へ

博物館

概要

 

新宿のSOMPO美術館で開催中の企画展「ゴッホと静物画―伝統から革新へー」を見に行ってきました。

≪開催概要≫
*会  期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
*休 館 日:月曜日(ただし1/8は開館)、
年末年始(12/28~1/3)
*開館時間:10:00~18:00(ただし11/17(金)と12/8(金)は20:00まで)最終入館は閉館30分前まで
*会  場:SOMPO美術館
 〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
 JR新宿駅西口、丸ノ内線新宿駅、西新宿駅、大江戸線新宿西口 駅より徒歩5分
 *問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

―どんな企画展?―

「ゴッホ」といえば、糸杉シリーズなどの風景画や、肖像画のイメージが強いですが、今回の企画展では、「静物画こそ、ゴッホが画家としての腕を磨いたジャンルなのではないか」というコンセプトのもと、「ひまわり」、「アイリス」をはじめとした25点のゴッホ作品を展示しています。

 また、チャプター1からチャプター3に分けて、ゴッホ作品の展示だけでなく、17世紀から20世紀の静物画の流れのなかで、ゴッホが先輩画家たちの作品からどのような影響を受けて、独自のスタイルを身に付けていき、のちの画家たちにどのような影響を与えたのか、西洋美術史のなかのゴッホの位置付けについて考えさせられるような展示になっています。

チャプター1 Tradition―伝統 17世紀から19世紀

 ゴッホの目的は人物画を描くことだったのですが、油彩画の技法を修得するために、ゴッホは静物画を描きはじめました。

≪ヴァニタス≫
 「ヴァニタス」とは、砂時計や、火が消えたロウソク、頭蓋骨などの‘’死‘’を連想させる事物を描き、人々の虚栄心を戒めるメッセージが込められた静物画のことです。

 

ピーテル・クラース「ヴァニタス」

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ「髑髏」

 

 

 

 

≪ヴァニタス以外の静物画≫

フィンセント・ファン・ゴッホ「麦わら帽のある静物」

 この作品は、ゴッホの最初期の静物画です。 中央の麦わら帽とパイプは、ゴッホ自身を連想させます。

 

≪魚の静物画≫

アントワーヌ・ヴォロン「魚のある静物」

 何の魚でしょうか?3尾の魚が横たえられていて、魚の周囲には小さなエビが散らばっています。美術館で見たときは気がつかなくて、あとで図録の写真を見て気づきました。いちばん手前の魚はこちらに白い腹を見せています。ムチムチとした手触りが伝わってくるようで、白い腹がまぶしいです。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ「燻製ニシン」

 

 

 

 

≪果物の静物画≫

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
「陶器の鉢と洋ナシのある静物」

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
「りんごとカボチャのある静物」

左側の2個のカボチャに光が当たって、立体感が強調されています。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
「野菜と果物のある静物」

 

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ「鳥の巣」

メイ
メイ

初めてこの作品を見たときは、なぜ鳥の巣を描くのだろうと疑問に思いましたが、色彩の対比の研究のために描いたとか、自然をよく知っている人に作品が売れる可能性をみていたということがわかりました。

 

 

 

 

アンリ・ファンタン=ラトゥール
「プリムラ、洋ナシ、ザクロのある静物」

ピンクのプリムラが可憐で、印象的な作品です。

 

 

アンリ・ファンタン=ラトゥール
「花と果物、ワイン容れのある静物」

 

 

 

ピエール=オーギュスト・ルノワール「ばら」

 

 

 

ピエール=オーギュスト・ルノワール「アネモネ」

 アネモネを描いた作品が多く見られることから、当時、ヨーロッパでは、室内を飾る花として人気があったのではと思いました。
 これらのルノワールの作品は、どちらも非常に美しい作品で、花を描く画家として最高の技術を持っていると感じました。 他の画家のように花を細密に描くというよりも花のかわいらしさを表現しているようで、「ばら」の方は、モフモフとした花の質感まで感じられるようでした。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ「青い花瓶にいけた花」

 

 

 

 

チャプター2 Still Life Paintings of Flowers―花の静物画

「花の画家」というと、ヤン・ブリューゲルが真っ先に浮かびますが、ほかにも17世紀には、花を専門に描く画家が活躍していたようです。
部屋を美しく飾るためには、歴史画や宗教画よりも親しみやすいので、需要が増えたということがあるのかもしれません。

 ゴッホは、とくにモンティセリやマネの花の静物画から多くを学んだようです。
初期は暗い色でしたが、次第に明るい色へ変化していきました。

 

アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ「花瓶の花」

 モンティセリは、南フランス、マルセイユ出身の画家です。

肖像画・静物画・雅宴画(貴婦人や貴公子が集う絵)で知られています。ゴッホと弟テオはモンティセリを愛好し、作品を収集していました。ゴッホは技法的にモンティセリ作品から多くを学んでおり、パリで描かれたゴッホの花の静物画には、暗い背景と鮮やかな花の対比、厚塗りの絵の具などの共通点が見られます。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
「カーネーションをいけた花瓶」

 

 

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
「ばらとシャクヤク」

 

 

 


フィンセント・ファン・ゴッホ「花瓶の花」

 

 

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
「赤と白の花をいけた花瓶」

 

 

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」

 ゴッホは、南仏のアルルに大好きな日本との共通点を見出し、そこで画家仲間との共同生活を計画し、ゴーギャンらを招きました。

ゴーギャン1人が実際に来てくれることになり、ゴーギャンが使用する予定の部屋の壁を飾るために、「ひまわり」(ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)を描きました。

その作品をもとに、1888年11月下旬から12月上旬に描かれたのが、この「ひまわり」(SOMPO美術館蔵)です。

ロンドン版と色彩や構図は同じですが、SOMPO版は花瓶に「Vincent」の名前が入っていない、ロンドン版よりも色が明るめなど微妙に変化を加えています。

 

メイ
メイ

人それぞれですが、ゴッホ本人が来たがっていた日本に、作品が縁あって来てくれたなどの理由から、7枚の「ひまわり」の中で、このSOMPO版が最も好きです。

フィンセント・ファン・ゴッホ「アイリス」

 

ゴッホは、アルルや、耳切り事件後の療養の地である、サン=レミ=ド=プロヴァンスでアイリスを描きました。

黄色と紫を対比させる、色彩の試みとして描いたといわれています。

「ひまわり」と「アイリス」の前に最も人が集まっていました。

どうしても最前列で見たかったので、少しずつ前進しながら、細部まで忘れてなるものかと、目に焼き付けるように鑑賞しました。

 この「ひまわり」とは2年ぶりの再会になるのですが、以前に見たときよりも更に、離れたところからもわかるほど、輝きを放っているように見えました。

美術の教科書で見ていた名画に直接対面することができることの幸せを痛感しました。

チャプター3 Innovation―革新

ポスト印象派と呼ばれたゴッホ、ゴーギャン、セザンヌらは、静物画でも新しく自由なスタイルを展開していきました。

 ゴッホの色彩は感情を表現し、フォーヴィスムや表現主義など、20世紀の美術に大きな影響を与えました。

フィンセント・ファン・ゴッホ「レモンの籠と瓶」

今回展示された全作品の中で、「ひまわり」と並んで最も魅力を感じた作品です。

 黄色の背景に、籠に入れたレモンが描かれており、全体的に黄色の中で、緑色の瓶が涼やかに見え、アクセントにもなっています。黄色い背景に黄色のレモンを描いたところに、「ひまわり」との共通性を感じます。

 

ポール・セザンヌ「りんごとナプキン」

セザンヌは、初期から晩年まで多くの静物画を描いており、特に「りんご」が有名です。

セザンヌ自身も「りんごでパリ中を驚かせたい」と語っています。「りんご」はセザンヌにとって、幼馴染の小説家、エミール・ゾラとの友情の証でした。


フィンセント・ファン・ゴッホ
「皿とタマネギのある静物」

 テーブルのほぼ中央に、放置して葉が伸びてしまった3つのタマネギ、右側に本とエアメールが置かれ、テーブルの向こう側に緑色の大きなティーポット、手前左に緑色のワインの瓶が描かれています。

注目すべきなのは、テーブルの向こう側に落ちそうな、火のついたロウソクと、そこからいちばん遠い、手前のパイプです。

 ゴッホの作品「ゴッホの椅子」では、椅子の上にパイプが、「ゴーギャンの椅子」では、椅子の上に「皿とタマネギのある静物」に描かれているものと同じ、燭台付きの火のついたロウソクが描かれています。パイプ=ゴッホ、ロウソク=ゴーギャンを表現していると考えれば、「大切な友人なのに遠く離れてしまった」ということを表わしているのでしょうか。

イサーク・イスラエルス「籠の中の花」

レンガ色の石畳の上に大きな籠が置かれ、売り物の黄色、白、赤、オレンジ色の花が、数本ずつ束にして入れられています。
背景は暗い色で描かれ、手前の花の色を際立たせています。屋内だけでなく、屋外の静物画もあるのだと知りました。

―ゴッホからヴラマンクへの影響―

≪モーリス・ド・ヴラマンクとは?≫
 フォーヴィスムに分類される、19世紀末から20世紀のフランスの画家・文筆家。画風においてゴッホから大きな影響を受け、日本の画家では、佐伯祐三らに影響を与えました。

 ここでは、ヴラマンクの作品は2点展示されていました。

そのうち1点は、花の形ではなく色彩に注目して描いたような明るい絵で、もう1点は、暗い室内のテーブルの上に置かれた大きな茶色の花瓶に、赤、白、青の花がいけられている絵で、花の色彩が強調されています。

 1901年3月、ヴラマンクは友人ドランと共にゴッホ回顧展を訪れ、ゴッホの色と筆触の強烈な生命感に圧倒されました。
そして、
「父よりもゴッホを愛する」と叫んだということです。

ヴラマンクのゴッホ作品との出会いにより、原色の鮮やかな色彩対比による画面が構成されることになり、フォーヴィスム誕生へとつながっていきました(「佐伯祐三・ヴラマンク展図録」より引用)。

 

メイ
メイ

ゴッホがあと10数年頑張って生きていてくれて、ヴラマンクなどの後輩画家たちに出会っていてくれていれば…もう少し幸せな結末になっていたかもしれないと想像してしまいました。

 

~ミュージアムショップ~

 企画展鑑賞後、ミュージアムショップに立ち寄りました。
カフェはお休みでした。

・企画展公式図録

 表紙が「アイリス」です。
花と茎、葉の部分が立体的になっていて、タイトルは英語表記で、海外の画集のようにスタイリッシュなデザインです。
遠方から来ている人には、重すぎない(重量が)のも嬉しいポイントです。

・ファン・ゴッホ美術館コラボグッズ

 アムステルダムのファン・ゴッホ美術館とのコラボグッズは、ミッフィーのぬいぐるみ2種類とトートバッグがありました。
「憧れのファン・ゴッホ美術館!!」と思って楽しみにして行ったのですが、私が見た限りでは手に取って見ている人は見当たらなくて、意外でした。

・その他

 2年前は、「ひまわり」のクッキー缶を購入して、今でも大切に使っているのですが、今回は、同じくらいの大きさの「アイリス」缶(中身は空です)がありました。

ほかには、絵葉書やクリアフォルダーなどは種類が充実していました。

~SOMPO美術館について~

今回は2回目の訪問でしたが、SOMPO美術館は、おもに以下の理由で素晴らしい美術館だと思います。

  1. 新宿駅から近い(徒歩約5分)。
  2. 建物に入ってすぐのところにコインロッカーがある(訪問したときは無料でした)。
  3. QRコードの提示が1回のみ。他館では、普通2回で、ミュージアムショップに入る際にも提示が必要な場合もあります。
  4. スタッフの皆さんが優しく、リラックスして作品を鑑賞できる。
  5. 建物が新しく、トイレが各階にあり、綺麗。
  6. ミュージアムショップのグッズのセンスが良い。
  7. 企画展の内容が魅力的。
  8. 最大のポイントですが、いつでも名画に会える。

素晴らしい美術館ですので、皆さんもぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか。

*今回、ほとんどの作品が撮影OKで、SNS等に使用してよいとの表記があったため、使用させていただきました。関係者の皆様、ありがとうございます。

 

 

 

 

 

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