「創作において自由なる競創ー19、20世紀の芸術家とポスター」

博物館

概要

この写真は、展示室内の作品ではなく、美術館の回廊に掲示されていたタピスリーのものです。

<基本情報>
会期:2023年9月16日(土)~2023年11月12日(日)
会場:群馬県立近代美術館(高崎市岩鼻町239)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(ただし9月18日、10月9日は開館)
9月19日(火)、10月10日(火)
観覧料:一般800(640)円、大高生400(320)円
( )内は20名以上の団体料金
*中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
群馬県民の日(10月28日)は無料

群馬県立近代美術館で開催されていた企画展「創作において自由なる競創ー19、20世紀の芸術家とポスター」を見に行ってきました。「マティス、ピカソ、ローランサン、シャガール、コクトー、ミロ、ダリetc.―巨匠たちのポスターの豪華競演」とのサブタイトルが付いているので、期待に心躍らせて行ってきました。

本企画展では、4つのテーマごとに約160点の作品を展示することによって、19世紀に興隆したポスターが、個展や出版物の告知として活用され、さらに20世紀半ばに、高い技術をもつ印刷所の登場によって芸術として確立されていった過程をたどっています。

メイ
メイ

*「Ⅰ 街の告知物から芸術作品へ」では、写真撮影可能な作品もあり、ブログ等に掲載可能の旨の表記がありましたので、掲載させていただきました。
感謝いたします。

Ⅰ 街の告知物から芸術作品へ

ロートレック、シェレ、ミュシャ他によるポスター芸術の創世記

現在、ポスターと聞いてイメージするものが登場したのは、19世紀前半です。
ただし、その当時のものは文字のみの表記でした。

19世紀中頃に、石版画の職人で画家であったジュール・シェレが、カラーの石版画によるポスターを制作し、街中に貼ることによって宣伝効果を発揮するようになりました。

初期にはドガやボナール、ロートレックたちもポスター制作に惹かれていきました。
ボナールやロートレックの作品の文字は手書きの書体であり、逆に新鮮さを感じます。
1900年初頭のパリには、ポスター作家が300名ほどいたといわれています。

以下に、主な作品を紹介します。
・オーブリー・ビアズリー
『子供の本』(T.フィッシャー・アンウィン社)の宣伝ポスター 1894年

 

 

 

・オーブリー・ビアズリー
『サヴォイ』全3巻本の宣伝用の小さなポスター 1896年

 

 

 

・ピエール・ボナール
『ラ・ルヴュ・ブランシュ誌』 1894年

 

 

 

・ピエール・ボナール「画家―版画家」展、ヴォラール画廊 1896年

 

 

・ピエール・ボナール
美術雑誌『版画とポスター』(予約購買6フラン) 1897年

 

 

 

 

・ジュール・シェレ
マリアーニ・ワイン 1894年

 

 

・ジュール・シェレ
グレヴァン美術館のファントシュ劇場(文字刷り前) 1900年

 

 

 

・ジョルジュ・ド・フール
風刺雑誌『小悪魔』 1892年

 

 

 

・アルフレド・エデル
オペラ「ル・マージュ」ポスター 1891年

 

 

 

・ウジェーヌ・グラッセ
国立オデオン座のための多色刷り石版ポスター(文字刷り前)
1890年

 

 

 

・ポール・セザール・エリュー
エドモン・サゴ書店の版画とポスター 1901年

 

 

・アルフォンス・ミュシャ
第20回サロン・デ・サン(百選展) 1896年

 

 

 

・リシャール・ランフト
サロン・デ・サン(百選展) 1894年

 

 

・エドモン・ロッシェ
サロン・デ・サン(百選展) 1895年

 
 
 
 
 
 

・ガストン・ルレ
第9回サロン・デ・サン(百選展) 1894―1895年

 
 
 
 
 
 

・アレクサンドル・スタンラン
『ジュルナル・デ・デバ』紙、
「1894年サロン展」特集号表紙
 1894年

 

・アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
『警鐘』 1895年

 
 
 
 
 

・アンリ・ド・トゥールーズ
=ロートレック
『彼女たち』(ポスター版) 1896年

 

 
 
 

Ⅱ 画家たちによるポスター芸術の確立

20世紀の巨匠たちによるポスター芸術の競創

20世紀に入ると、ポスターの表現にも、絵画と同じように、アール・ヌーヴォーやキュビスム、シュルレアリスム、構成主義といった、さまざまな表現が使われるようになりました

また、20世紀のポスターでは、読みやすくわかりやすい文字を主として、絵柄や色合いと合致した画面構成を行うようになりました。

ここでは、とくに印象に残った画家や作品についてお話ししたいと思います

・ジョルジュ・ブラック
ピカソと並ぶ、キュビスムの創始者の画家。
ここでは、ブラックの作品が4点展示されていました。
ピカソと同様、鳩に特別な意味をもたせていたようで、作品の中で象徴的に用いられています。

・マルク・シャガール
シャガールのポスターは、色彩豊かで美しく、マティスの作品と同様に、ひときわ人目を引いていました。
とくに「カルメン」と「魔笛」は、作品自体が光を放っているかのような美しさでした。

・サルバドール・ダリ
ダリの作品も4点展示されていました。
フランス国立鉄道会社からの依頼で制作された「ノルマンディー」のポスターを見て、ダリの作品で見たことのあるモティーフに似ていると思いましたが、作品の一部が、自身の過去の作品「眠り」と「食用家具の離乳」をベースに作成されているということでした。

・アンドレ・ドラン
「カンティーニ美術館での展覧会」のポスターが展示されていました。
点描風で、海または運河の向こうに教会らしいシルエットが青く浮かび上がっており、水面への反映も表現されていて、シニャックの作品を鑑賞しているかのようだと感じました。

・ル・コルビュジェー敬愛する巨匠
近代建築の巨匠、ル・コルビュジェの作品です。
今回展示されていたのは、「ル・コルビュジェの新作タペストリー」展、ラ・ドムール画廊1点のみでした。私は、国立西洋美術館などのル・コルビュジェ建築が大好きで、とても尊敬している建築家なので、興味深く鑑賞しました。
しかし、人間の横顔や鳥らしい形、犬らしい形がところどころに配置されていて、赤・黒・白の3色だけが使用されているという程度しか理解できませんでした。

メイ
メイ

天才の考えることは、難しいですね。

・アンリ・マティスー憧れのマティス!!

*この写真は、展示室内の作品ではなく、ホールへ続く回廊に掲示されていた、タピスリーのもので、今回展示されている「ポンパドール夫人」と同じ図柄です。

今回の企画展を見に来ようと思ったきっかけになったのは、マティスです。
マティスのポスターは3作品が展示されていました。

「ニースー仕事と喜び」は、ニース市長からの依頼で、ニースへ観光客を呼び込むために制作されたものです。
大きく開かれた窓から見える明るい空と緑、対照的に、室内の壁は黒色で、テーブルの上には11個のざくろがあり、楽しいバカンスの雰囲気が見事なまでに伝わってきます。

メイ
メイ

ニースはまだ訪れたことがありませんが、このポスターがニースの心地よい風をつれてきてくれるかのよう。当時の人々は、きっとこのポスターに導かれ、こぞってニースを訪れたことでしょう。

他の2作品「ポンパドール夫人」と「「グアッシュ切り絵」展、パリ装飾芸術美術館」は、マティスの切り紙絵のシリーズにとてもよく似ています。
とくに「ポンパドール夫人」の方は、スタイリッシュで、現代的なデザインだと感じます。

・パブロ・ピカソ
ピカソの作品は6点展示されていました。
一目でピカソだとわかるものと、ピカソだとわからないものがありますが、とくに美しいと感じたのは、「コート・ダジュール旅行ポスター」です。
ホテルらしい、豪華な装飾のアーチの向こうには、明るい海と空、白い雲、南国らしい木々が見え、フェンスには2羽の鳥の姿が見えます。
1枚のポスターから、南仏らしい、美しく楽しげな雰囲気が伝わってきます。

・モーリス・ド・ヴラマンク

メイ
メイ

私は、群馬県立近代美術館のコレクション展示でこの画家の、街角を描いた油彩画を初めて見て、とても魅力を感じました。

マティスと同じくフォーヴィズムの画家ですが、作風は大きく異なり、暗い色彩で描かれた通りなどの作品が多いです。

今回展示されている、「「フォーヴィズムから現在まで」展、シャルパンティエ画廊」のポスターも、暗い空の下、両側に家々が並ぶ通りが描かれています。
色彩は暗いですが、力強さを感じます。

Ⅲ ポスターアートとして芸術分野へのさらなる昇華

第2次大戦後の新しい芸術家たちが描き出す百花斉放のポスター芸術

戦後、ピカソやシャガール、マティスなどの著名な画家は、多くの石版画作品の制作と同時に、ポスターも制作しています。

それらは、企業からの宣伝広告のための作品や、自らの展覧会の告知のためのものであったり、画家が舞台美術に協力したオペラなどのイベント広告のポスターなどがあります。

それらの中には、過去に描いた作品をそのまま、または一部を使用した作品もありました。

このコーナーの作品の中でとくに目についた作品は、棟方志功の「「棟方志功―現代日本の版画家」展、国立アジア美術館(ギメ美術館)」です。

1959年に「棟方志功版画欧州主要都府展」が企画され東京展開催後、約2年間ヨーロッパ各地を巡回した際、フランスで開催された展覧会のポスターです。

作品について棟方は、「弓を持たせない、鉄砲を持たせない、心で花を狩る」という言葉を残しています。その言葉どおり、作品中の馬上の3人の人物は、武器を持たず、射るしぐさをしていて、優雅に見えます。

Ⅳ ポスター芸術の創造の場、ムルロ工房

画家たちを陰で支えたムルロ工房の功績

ムルロ工房は、パリの印刷所であり、マティス、ピカソ、シャガール、ミロなど名だたる20世紀の巨匠たちを迎え入れ、彼らがオリジナルの石版画作品を制作する際のパートナーとなりました。

また、1930年にルーヴル美術館のドラクロワ回顧展のポスターを手掛けたことをきっかけに、国立美術館のポスターを一手に引き受けるようになりました。

このコーナーでは、ムルロ工房の展覧会ポスターの仕事を、画家の没後の回顧展や書籍の宣伝ポスターを中心に紹介しています。

・メアリー・カサット
印象派を代表する女性画家の1人。アメリカ出身。母と子の姿を描いた作品が多く、ここで紹介されている「「画家―版画家」展、アメリカ文化センター」も、親子を描いた作品です。

・ポール・セザンヌ
1956年1月にアシェット社から『セザンヌの生涯』が刊行された際の宣伝ポスターです。

私も大好きなセザンヌの故郷、エクス・アン・プロヴァンスのサント・ヴィクトワール山を描いた作品の部分図を使用しています。

・エドゥアール・マネ
「カンティーニ美術館での展覧会」のためのポスター。カサットと並んで印象派を代表する女性画家であるモリゾの肖像画、『スミレの花束を持ったベルト・モリゾ』が元になっています。

・フィンセント・ファン・ゴッホ
「ジャックマール=アンドレ美術館での展覧会」のためのポスターです。
ゴッホ作『タンギー爺さんの肖像』が元になっています。

企画展を見て

私は、「ポスターの展示」と聞いて、商業目的に制作されたもので、油彩画に比べて芸術性において劣るのではないか?と思ってしまいました。

しかし、実際に作品を鑑賞してみて、油彩画の展示のときとはまた違ったワクワク感を感じました。同じ画家の作品でも、油彩画とは違った特色をもっていますし、文字が入っていてメッセージ性が強いため、競馬場や観光地やさまざまな場所へ連れていってもらったかのようで、楽しかったです。

実にたくさんの画家の作品が展示されていたことによって、旅行しているような感覚も味わえました。例えばマティスのニース観光誘致のポスターなどは、同じ図柄の油彩画を見ているときよりも、実際にざくろが置かれているテーブルについているようなリアルさがあります。観光客誘致として、成功していると言えるでしょう。

また、油彩画だと時代を感じさせる面もありますが、ポスターだと、初期の作品であっても、ファッショナブルで新しく感じるし、気軽に家に持ち帰って飾りたい気分になるということも、新しい発見でした。
*企画展公式図録の解説を参照させていただきました。

 

*これらの写真は、展示室ではなく、回廊に貼られていたもので、街中に貼られていたポスターの様子がわかる写真になっています。

レストラン紹介―森のレストランころむす

美術展鑑賞後、美術館内の「森のレストランころむす」に立ち寄りました。

この美術館には何度も訪れていますが、レストランを利用したのは、初めてです。建物の外部からも直接入れるので、公園散策の途中や、もちろん隣の群馬県立歴史博物館の入館者も利用することができ便利です。

森のレストランころむす
営業時間:11:00~15:30
主なメニュー
有機コーヒー 500円(税込)
えばらハーブ豚使用「ミートソースのパスタ」サラダ付1,200円(税込)
高崎市下滝町のえばらハーブ豚をじっくりと煮込んだミートソース。
群馬県産小麦粉とイタリアの粉の生パスタ。
古代米カレーサラダ付1,000円(税込)
白米・玄米から選べます。古代米、えばらハーブ豚のキーマカレー。
森のきのこ豆腐ハンバーグ1,000円(税込)
白米・玄米・古代米・古代米パンから選べます。
豆腐、きのこ、レンコン、玉ねぎ、にんじんで作ったヘルシーハンバーグに甘くてとろみの付いたきのこソースがかかっています。
*ほとんどのメニューに+300円でドリンクを付けられます。

ひとりでも入りやすく、お子様連れでも入りやすい雰囲気です。
スタッフさんが優しいです。
お水はセルフサービスになっています。

私は豆腐ハンバーグをいただきました。
体にやさしい味でした。
古代米パンを選んだのですが、堅いのかなと思いましたが、柔らかいバゲットの中に粒が入っている感じです。
ほかのお客さんは、カレーを頼んでいる方が多かったようです。

レストランはガラス張りになっており、3方向を人工池が巡っていて、池の中に宮脇愛子さんの作品「うつろひ」が設置されています。
作品と、池に反射する光が建物の外部をうつろいゆく様子を眺めながら食事することができます。
(注)群馬県立近代美術館は、とくに冬場は休館が多いので、ホームページで確認してから行かれることをお勧めします。

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