群馬近代美術館_後半

博物館

― ピカソの静物画 ー

前回に続いて、群馬県立近代美術館のコレクション展示について書きたいと思います。
展示室2に、『魚、瓶、コンポート皿(小さなキッチン)』というピカソの静物画があります。
カンヴァス中央にこげ茶色のテーブルが置かれ、テーブルの中心より右側に、広げた新聞紙の上にサンマのような細い魚が3尾並べられています。
テーブルの中央には、半分に切ったレモンが、左側にはクロワッサンのような物が置かれています。レモンの奥、つまり鑑賞者から見て奥側には半透明のワインボトル、その右側にコンポート皿が置かれています。
床の濃いオレンジ、魚の青、レモンとクロワッサンの黄色、コンポート皿の背景の緑色が鮮やかで、見事な対比をなしています。

美術館の解説によると、この作品は、「ピカソにおけるキュビスムの完成形」から「1924年にはじまる静物画シリーズへの橋渡し的作品」ともみられる、重要な作品だということです。
正直に言って私には、何回見ても、コンポート皿が人の顔に見えてしまい、その背景のオリーヴ色の三角形が、三角巾かシスターの被り物のように見えてしまいます。ピカソに怒られてしまいますね。でも、そのことによって、作品全体が子どもの作品のように可愛らしく見えます。
細密画と違って、見る人によって違って見えるという点も、ピカソの絵画の魅力なのかもしれません。
中央のレモンの断面の台形も、作品全体のアクセントになっています。
私は、残念ながらまだ地中海を訪れたことはありませんが、このステキな作品から地中海の明るさと風を感じられたような気がします。

― 『ゲルニカ』のタペストリー ー

群馬県立近代美術館2階の展示室2の突き当りの、大作がよく展示されるスペースに、ピカソの『ゲルニカ』のタペストリーが、2021年7月3日~8月22日まで展示されていました。
7月30日の読売新聞に紹介の記事が掲載されていたため、この作品を目当てに来館した人が多く見受けられました。
勿論、私もその中の一人です。
普段の平日は中高年のお客さんがほとんどですが、夏休み期間ということもあり、子ども連れも何組か見かけました。

『ゲルニカ』の本物の方は、1937年製作の、カンヴァスに油彩で、マドリードの国立ソフィア王妃芸術センター所蔵作品です。

タペストリーの方は、1983年製作の、デュルバックの作品で、ほぼ原寸大に近い大きさです。
この作品は、世界に3作品ある、『ゲルニカ』を原画としたタペストリーの3番目のヴァージョンです。
美術館の解説によると、ピカソは1番目の製作後、その下絵に修正を加え、第2、第3ヴァージョン用の指示を与えたそうです。
つまり、ピカソ本人の監修のもとに製作されたということになります。
私は残念ながら、原画はまだ見ていませんが、去年、東京で見た陶板作品よりも、こちらのタペストリー作品のほうが、訴えかけてくる力は上だと感じました。
「これが『ゲルニカ』か! と思い、しばらく作品の前に佇み、見入っていました。
タペストリー製作者のデュルバックは、1953年からピカソ作品のタペストリーを手掛け、1960年以降はピカソ作品に専念し、27点を製作しました。
このタペストリーは、1996年度に群馬県立近代美術館が購入しました。
タペストリーの素材は光に弱く、展示期間が限られるため、今回の展示は約1年ぶりの公開ということです。

写真は、街中で見つけた陶板です。

― 山種記念館 ー

次に、「山種記念館」を紹介したいと思います。
「山種記念館」とは、群馬県立近代美術館2階の「展示室7」の別名で、私がこの美術館でもっとも気に入っている展示室です。
群馬県吉井町出身で、山種証券の創立者である山崎種二氏の寄付を建設資金の一部として1974(昭和49)年に完成しました。
展示室入口の「山種記念館」のプレートの文字は、山崎氏と親交のあった、奥村土牛画伯によるものです。
同じ群馬県内の、原美術館アークの「観海庵」と同様、日本美術や古美術のための特別な展示室です。
作品の保存のため、他の展示室よりも照明を暗めにしてあります。
展示室の雰囲気と、作品の性質の両方から、他の展示室とは異質の、神秘的な雰囲気をもっています。

― 生誕100年塩原友子 紙の命・線の力 ー

前回ご紹介した「山種記念館」で、2021年7月3日~8月22日まで開催された、塩原友子の企画展について書きたいと思います。
塩原友子は、群馬県前橋市出身の日本画家です。
当初は、日常生活から着想を得た明るく柔和な画風でしたが、のちに伝統的な日本画の枠組みにとらわれない自由な画風へと展開していきました。
今回の企画展は生誕100年を記念して、昭和前期から平成に至るまで幅広く作品を紹介し、塩原友子の画業をたどっています。
とくに印象的だった作品を紹介します。

『早春裏妙義』(1991年、紙本着色、四曲一双) 今回の展示作品の中で、最も大きい作品です。
山が暗い色で山肌がゴツゴツとした感じで、妙義の力強さがよく表現されています。
その一方で、人家はとても小さく描かれています。
自然の偉大さと人工物の小ささを対比させているように感じました。

『花に生きる』(1982年、紙本着色、額装) 装飾的な絵画です。
黄色と黒が多く使われていて、小さい丸がたくさん描かれているところが、クリムトの絵画に似ている感じがしました。
よく見ると、水差しやピッチャー、ピッチャーの両側に黒い手が見えます。
たくさん描かれた小さい丸は花で、花の世話をする楽しさや喜び、さらに生きる喜びを表現しているように感じました。

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